世界の歯科医療先進国では早くから金属による悪影響が伝えられ、それと同時にセラミック治療などのメタルフリー治療へと移行されています。
歯科素材の進歩も、メタルフリー治療への後押しとなっています。特にこれまで小臼歯の被せ物には、保険治療の場合、銀色の被せ物しか適用されませんでした。ところが「CAD/CAM冠」と呼ばれる白い被せ物が保険適用となり、これまで金属素材の被せ物しか適用できなかった治療に、大きな選択肢が加わりました。小臼歯は笑うとよく見える場所であり、特に若い方や女性の方は、見える場所が銀歯であることに大きなコンプレックスを抱くでしょう。
また審美志向の相乗効果も重なり、見た目を重視する方も増えています。セラミッククラウンを選択する時、土台に金属を使用せず、グラスファイバーコアという白いものを使い、その上にセラミッククラウンを被せます。白く美しい歯に生まれ変わることは、結果的にメタルフリー治療を行うことになり、金属による悪影響を受けることがないのです。
このように、今後の歯科治療の中心は、金属素材のものからメタルフリー治療へと移行していくことが考えられるでしょう。
●金属アレルギー
金属素材による最も大きな影響は、金属アレルギーです。ネックレスや指輪などの貴金属を身につけたとき、赤くなったりブツブツができて痒みが生じると、金属アレルギーと診断されます。このような症状が出る方は、口腔内における金属アレルギーが発症する可能性が高くなります。金属が触れている部分に赤みが出たり、口内炎ができるなど粘膜に異常が起きます。また悪化すると、喘息や腎炎、偽アトピー性皮膚炎など重篤な症状が出ることもあります。
●歯ぐきの黒ずみ
審美的な問題として、金属素材による歯ぐきの黒ずみがあります。ブリッジや前歯の差し歯(前装冠)、自費治療のメタルボンドなどは内部に金属が使われており、年数が経つにつれて金属が溶け出していきます。それが歯ぐきの黒ずみとなって現れ、審美的に問題が出てきます。
●二次カリエスのリスク
銀歯の接着剤はどれだけしっかりと装着しても、歯にぴったりと密着しにくいという難点があります。そのためわずかな隙間から唾液とともに虫歯菌が入り込み、銀歯の下で虫歯を発生させる「二次カリエス」のリスクが高まります。二次カリエスは、金属素材を使った治療には必ず起きてしまうと言っても過言ではないくらい、再発しやすい特徴があります。
●メタルコアによる歯の根の破折
神経を取った歯は、根の治療後に土台を立てて、被せ物を装着します。この土台を金属のもの(メタルコア)にすると、強度が強すぎて歯の根に大きな負担がかかり、歯が割れる、根が折れるなどのトラブルが発生し、最悪の場合、抜歯せざるを得なくなります。
●オールセラミック
セラミックは陶器素材で、白く透明感がある美しさが特徴です。汚れもつきにくく、プラスチック素材のように経年とともに黄ばむ心配もありません。土台はメタルコアではなく、白いファイバーコアを使うため、土台の色が透けることも金属アレルギーが起きることもない優れた治療法です。
●ジルコニアオールセラミック(ジルコニアクラウン)
ジルコニアは、人工ダイヤモンドと言われており、強度と美しさに優れています。歯科で使用されるジルコニアオールセラミックは、ジルコニアの特性を生かした被せ物で、内部にジルコニア、外側にセラミックが焼き付けられた、強度と審美面で優れた素材です。奥歯の被せ物は噛む機能を考え、強度が必要となります。
ジルコニアオールセラミックは強度という機能面と、美しさという審美面を兼ね備えていることから、単冠はもちろん、連結したブリッジにも使用できるなど、その使用用途が大幅に広がりました。ジルコニアオールセラミックが使われる前は、メタルボンドが主流でしたが、金属を使っていることから金属アレルギーや、歯ぐきの境目の黒ずみなどが問題視されていました。ジルコニアオールセラミックは、このようなデメリットを払拭する新しい治療の代表と言えるでしょう。
●CAD/CAM冠
先ほど少し触れたように、臼歯部の被せ物が保険適用で白いものが使えるようになりました。それが「CAD/CAM冠」です。型取りをしたものをコンピューターで削り出す、全く新しい手法です。セラミックに比べて審美面ではやや劣りますが、周りの歯に合わせた色が選べ、自然な仕上がりとなります。
素材はハイブリッドセラミック(セラミックとプラスチックを混ぜた素材)で、オールセラミックやジルコニアオールセラミックと比べて強度が劣りますが、メタルフリーで小臼歯を白い歯にできることは、治療の選択の幅が広がったことを意味します。
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